介護保険の「更新認定」。現場で支援をしていると、この結果にヒヤヒヤさせられる瞬間が何度もあります。
今回担当することになったのは、生活保護を受給されている70代前半の男性。 これまで「要介護2」で介護ベッド(特殊寝台)をレンタルされていたのですが、今回の更新で判定が「要介護1」に区分変更(状態改善)になってしまったのです。
ここから、ケアマネジャーとしての冷や汗ものの奮闘が始まりました。
軽度者(要介護1)になると、介護ベッドは原則レンタル不可に
介護保険のルール上、要介護1や要支援の方が保険適用で介護ベッドをレンタルすることは原則できません。
軽度者でもベッドを使い続ける方法は、主に以下の3つがあります。
- 保険を使わず「全額自費」でレンタルする
- 「例外給付」の理由書を提出し、自治体(介護保険課)に認めてもらう
- 他の福祉用具(手すり等)を規定単位以上借りることで、ベッドが無償(実質無料)でついてくる事業者のサービスを利用する
一見、「1か3の方法で対応すれば解決するのでは?」と思えるかもしれません。 しかし、今回のケースには絶望的な大問題があったのです。
絶望の「タバコの焦げ穴」と35,000円の弁償費用
男性の部屋を確認すると、なんとレンタル中の介護ベッドのマットレスに、ご本人の不注意によるタバコの火で開いた焦げ穴がいくつも存在していました。
当然ですが、ベッドを一度返却して自費レンタルに切り替えたり、他社へ事業者を変更(上記1や3の方法)したりする場合、現在のレンタル品は返却しなければなりません。 そして、傷をつけてしまったマットレスは「弁償」となります。
事業者と交渉し、減価償却を考慮してもらったとしても、弁償費用は約35,000円(定価は7万円相当)。
生活保護を受給されており、日頃から金銭的に余裕がないこの方にとって、35,000円の急な出費は到底支払える金額ではありません。
つまり、残された道はただひとつ。 「2. 理由書を作成し、例外給付を認めてもらうこと」だけだったのです。
元気すぎる要介護1。主治医は理由書を書いてくれるのか?
例外給付を申請するためには、総合病院の主治医に「この身体状況だからこそ、どうしても介護ベッドが必要である」という医学的所見(書類)を作成してもらわなければなりません。
しかし、ここで大きな不安がよぎります。
この男性が介護を受けるきっかけとなったのは、過去に糖尿病から足先に菌が入り、右足の指先が壊疽(えそ)して切断となったためでした。 ですが、術後1年も経つと驚くほど回復。現在は普通に歩けますし、床からの立ち上がり動作も実にスムーズに行えています。
70代前半という若さもあり、客観的に見ても「とっても元気」な状態なのです。
「こんなに元気に動ける状態なのに、先生が『介護ベッドが必要』なんて書いてくれるだろうか…?」
弁償費用をなんとか回避し、今の生活環境を維持させてあげたい一心で、祈るような不安な気持ちのまま主治医への照会状を提出しました。
またもや立ちはだかる「1,100円」の壁
不安を抱えながら待つこと2週間、病院から電話がかかってきました。
「文書作成費用で1,100円かかりますので、病院に支払いに来てください。お金と引き換えに書類をお渡しします」
慌ててご本人に電話をして「1,100円をお支払いいただくので…」と伝えると、返ってきたのは「今お金がないから、月末まで待って」という言葉。
しかし、更新月の期限はもうすぐ。月末まで待っていたら申請が間に合いません!
「なんで1,100円もないの?普段どういうお金の使い方をしているの…!」と焦りと苛立ちが一瞬頭をよぎりましたが、怒っていても何も始まりません。ここは腹をくくり、私が一時的に立て替えて書類を回収しに行くことにしました。
主治医の「神対応」に思わず涙……!
ドキドキしながら病院の窓口で1,100円を支払い、受け取った書類を確認した瞬間、思わず心の中で「せ、先生〜〜!」と叫んでしまいました。
なんと主治医の先生は、現在の歩行状態だけでなく、過去の既往歴や「筋力低下等の理由により介護ベッドが必要である」という文章をしっかり書いてくださっていたのです。
「ちゃんと理解して書いてもらえた…!」 不安が一気に吹き飛び、ありがたさで胸がいっぱいになりました。
無事に役所の申請へ、そして更新月セーフ!
書類が揃えば迷う暇はありません。 そのまま手元に揃った「主治医への照会状」と「福祉用具貸与の理由書」を持って役所の窓口へ直行しました。
結果は——無事に更新月に間に合い、軽度者特例(例外給付)の申請を完了することができました!
マットレスの弁償代35,000円も払わずに済み、これまで通り使い慣れた介護ベッドをそのまま継続してレンタルできることになり、心からホッと胸をなで下ろしました。
おわりに:制度の狭間で揺れる現場
制度のルールに翻弄され、利用者の懐事情やうっかりミスにハラハラし、お医者様の神対応に救われる。 今回の件は、ケアマネジャーという仕事の「大変さ」と「やりがい」がギュッと詰まった出来事でした。
ルール通りにいかないからこそ、知恵を絞り、周りの協力を得ながら解決していく。 今日も介護現場の日常は、ドラマのように動いています。
